2009年9月16日水曜日

歌舞伎座のおもいで

もう二ヶ月も前のことで恐縮だが、七月の歌舞伎座へ行った。
二等席をとり、お弁当は晴海通を渡ったところにある日ノ出寿司で購入した。
学生のころは歌舞伎研究会の団体観劇で、毎月のように歌舞伎座の三階B席に来ていたが、そのときのお弁当も、たいてい日ノ出寿司で一番安い折り詰めを買っていたのだった。

歌舞伎観劇のとき、何を食べるかというのは重要である。
昼の部、夜の部、どちらか片方しか観ないとしても4時間前後はかかるのでお腹がへる。
ただに空腹を満たすというだけではなく、観劇の気分を削がないものが望ましい。
もちろんお酒は飲まない。
せっかくの舞台鑑賞で、わざわざ感覚を鈍磨させるものを摂取するなんておろかなことである。コーヒーは飲む。
3階のカレー食堂や2階の蕎麦屋で食べることもあるし、時間に余裕があるときは近くのデパートなどで惣菜を買い込んでいくこともある。
ちなみに吉兆には入ったことがない。

歌舞伎座は老朽化のため全面改修されるとのことで、現在「さよなら公演」が行われている。
これらの店舗は改修で様変わりしてしまうのだろう。

学生のころ、団体観劇のほかに一幕見席にもしばしば通っていた。
この大きな歌舞伎座の一番上、四階席まで階段で上るのはなかなかしんどいが、年配の方も一生懸命登っていらっしゃる。
自由席なので、先着順の列に並ぶのだが、この階段の間にすこし順序が入れ替わることもある。
社会人になってからは、土日に三階席のチケットがとれなかったときなど、昼夜通しで一日中一幕観席に居座るなんてこともあった。
そのようなときは、昼食と夕食とお菓子を紙袋に詰めて持っていったりした。
改修後も一幕観席は残され、エレベーターが設置されるという。

歌舞伎座の席種ごとの客層の違いは明確に存在するが、単純に一等が金持ち、三階が庶民というわけでもない。
一等席には、年に一度の観劇を楽しみにしている地方のご夫婦なんかも多くて、それだけに非日常感は格別である。
三階席は大向こうや毎日のように通い詰めているマニア、それに学生など若者が多い。
一幕見席は三階席と似た傾向ではあるが、よりマニアックな人々がいる一方で、海外からの観光客などもいたりする。
安い席のほうがより混沌とした様相があって、昔ながらの庶民の娯楽としての歌舞伎興行の一面が残されている気がする。

さて仕事を辞めてからはお金のほうはともかく、歌舞伎座にいく時間はふんだんにありそうなものなのだが、そうなると逆に足が向かないものだ。
七月はかなり久しぶりの観劇だった。
私が見た夜の部の演目は「夏祭」と「天守物語」のふたつである。

「天守物語」で使われた緞帳は、案の定というかなんというか、私が昨年まで勤務していた会社が寄贈したものだった。
この緞帳は白と銀色を基調としたなかなかに品のよいもので、私も気に入っていた。
それだけに、いろんな芝居にマッチし重宝されているようである。
とりわけ鏡花の幻想的な芝居などには必ずといってよいほどこの緞帳が使われる。
かつてはこれを見るたびに少しばかり誇らしげな気持ちになったものだが、今となっては複雑である。
改修後もこの緞帳は使われつづけるだろうか。

緞帳の河緞帳の月映る   中村安伸

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