I.Jこと稲川淳二の怪談ナイトに行ってきた。彼の「話芸」は現在の日本の中ではトップレベルではないかと思う。滑舌が悪いところも、怖いのである。今回も良かったが、話があまり怖くなかったのが残念だ。客席のリアクション(うわーとか、きゃーとか)もほとんど聞こえなかった。過去の数々の名作が頭にあるだけに、期待が高くなってしまうのはしようがないのだが。
しかし、得意の「擬音」は一段と磨きがかかっていた。「擬音師匠」と言えば、お笑い芸人の宮川大輔だが、元祖擬音師匠は、IJである。たとえば、ハイヒールの音。ふつうは「コツ、コツ…」と表現するが、彼の場合は、たとえるならエドはるみのギャグ「コー!」みたいな感じで、口を「O」の字に開けて、喉の奥から息を絞り出すように発音する。めちゃめちゃリアルで怖いのである。彼は擬音に命を懸けている。今回ここまでやるかと思ったのが、車のワイパーの音。手で動きを模しながら、「ウィーキシ、ウィーキシ…」と延々やっていた。あまりに凄くて、笑ってしまう。じつは以前、ほぼ真正面の最前列に近い席で見たことがあるのだが、そのとき、顔の表情や擬音のあまりの凄さにツボに入ってしまって笑いがとまらなくなってしまい、会場の一番後ろに行って立って見たということがあった。今回は後ろの方の席だったので大丈夫だろうと思っていたが、やっぱり笑いがこみあげてきてしまった。これは馬鹿にしているのではない。芸が凄まじすぎて笑ってしまうのである。もちろん、肝心のところでは本当に怖い。しかも話の幅も広い。今回の中でも、スティーブン・キングかというような話もあった。ハリウッドで映画化されてもおかしくない出来だ。
話芸だからしようがないのだけど、アンコールがあってもよかったと思う。過去の名作の中から一席演るのだ。「おお、『先輩の鳩』だ!」なんていったら楽しいだろうな。何度聞いても怖いのだから。もう秋だが、今日は日中とても暑く、会場を出たら寒いくらい涼しかった。
怪談の擬音が怖し夜の秋 榮 猿丸
0 件のコメント:
コメントを投稿