「イエロー・サブマリン・ソングトラック」は、リミックスである。今風の音の定位になっている。これは衝撃だった。だれもが驚いたのが、ドラムだ。ものすごい迫力で、「リンゴってすげえな」と再評価されたものだった。
そのあと、「レット・イット・ビー・ネイキッド」が出た。「レット・イット・ビー」といえば、メンバーが投げ出したものをフィル・スペクターがホーンやストリングスを配し再プロデュースして完成させたアルバムだが、そうした過剰なプロデュースをポールは気に入っていなかった。「ネイキッド」は、そもそものコンセプトであった、「バンドの原点に帰って、オーバー・ダビングを一切しないそのままの音」としてリミックス、リマスターされたものだ。ファンの間でも、従来の「レット・イット・ビー」は、フィル・スペクターの色が出過ぎているという理由で、あまり評価が高くなかった。ぼくもそう思っていたのだが、聴いてみて思ったのは、「フィル・スペクターってすげえな」というものだった。よくこれらの素材を、あそこまで仕上げたなと、従来の「レット・イット・ビー」の方が断然よいと思ってしまった。音がクリアになったのはいいが、今度は、「あれ、リンゴって下手なのかな」と思ってしまったり。ポールの声、でかくねえか、と思ったり。レット・イット・ビーの間奏のギターも違うものになっていてがっかりした。全体的に音のバランスが悪いのだ。というわけで、「ネイキッド」は全然聴いていない。
やっぱり、リマスター早く聴きたい。でも、ボックスで買うか。一枚ずつ買うか。一枚ずつ買って、結局全部買ってしまったら後悔しそうだし。ステレオ盤は、やっぱりドラムとかヴォーカルが右や左に振られているのだろうか。ならばモノラルの方がいいかな。いや、迷う。
数年前、横須賀のどぶ板横丁の小さなバーで、カウンターの隣に座っていた黒人の女性がひとり、泣きわめきながら酒を飲んでいた。「ごめんね、この娘、失恋しちゃって」とママが言う。ぼくは「大丈夫ですよ」と言いながら、どうかこっちに絡まないでくれと祈る。付き合っていた頃に彼からもらった手紙を読んでは泣き、読んでは泣き。そのうちカラオケを歌い出した。「やさしく歌って」。おどろくほど下手だ。すでに髪はボサボサ、マスカラは剥げ落ちている。失恋ソングをどんどん入れる。ビートルズの「ヘイ・ジュード」を入れるが、泣いて歌えない。するとママが「歌ってあげてくれる?」と僕の方にマイクを持ってきた。ここでくるか、と思いつつも断り切れず、「ヘイ・ジュード」を唄うぼくに彼女が抱き付いてくる。安い香水と体臭が混じった匂いのなかで、そういえばこの曲長いんだよな、と後悔するも後の祭り、半ばやけになってラララ…と唄ったのも今となってはなつかしい。
恋文を燃やす灰皿秋暑し 榮 猿丸
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