2010年1月27日水曜日

新年会(句会報)

猿丸さんの記事にもある通り、1月23日土曜日、有楽町にてhaiku&meの新年会が行われた。レギュラー執筆者の三名と、これまでご執筆いただいたゲスト執筆者の方々、さらには今後ご執筆頂く予定の方々にお声をかけたところ、急なお誘いにもかかわらず、また新年会シーズンで慌ただしい中にもかかわらず、総勢十名にお集まりいただくことができた。
自己紹介では、それぞれ俳句をはじめたきっかけを語り、代表句を披露することとなった。これによって俳人の集まりらしい雰囲気になったと思う。

さて、飲み会終了後、近くのルノアールに移動して二次会となったのだが、葉月氏が懐中より細長い紙束を取り出し、句会をやらねば帰すまじという気魄で皆に押し付けるので、急遽句会が行われることになった。ちなみに十名全員が二次会に参加してくださったのはありがたいことである。

題詠、二句以上出句、閉店まで時間があまり無かったので、清記せず短冊をそのまま回す方式をとった。席題は松本てふこ氏出題の「新」そして、浜いぶき氏出題の「針」の二つである。一人あたり6句投句した人が二名、合計34句が投句された。

以下に各作者の句を1,2句ご紹介してゆきたい。なお、当日選評の時間がなかったため、各句に私の評を付しておく。当日参加者のみなさまはコメント欄に選評を記していただければ幸いである。もちろん参加者以外の方からのコメントもお待ちしております。


大寒や短針も長針も好き   上野葉月

時計の針フェチという性向はなかなかニッチなものであろうが、一方で「短針も長針も」と意外におおらかな面を見せている。「大寒」の緊張感が効いている。
(五点句、毬子、隆、いぶき、茂根、安伸選)


初桜レコード針の落つる場所   上野葉月

漆黒のレコード盤に吸い込まれるように落ちて行くレコード針。初桜というややロマンチックな季語もいい。レコードの黒に初桜の白と、色彩的なとりあわせとしても効果的である。
(二点句、隆特選、いぶき選)


運針表貼られて壁や冬日さす   山口珠央

中七の倒置の効果で、やわらかな冬の日差しのはいりこんだ室内の景が見えてくる。見事にライティングされた映画のよう。
(五点句、葉月、隆、いぶき、猿丸、安伸選)


盤上のレコード針や冷ややかに   山口珠央

とりあわせが見事だった葉月句と対照的に、こちらはレコード針そのものに視点を絞り込んだ。ともあれ、アナログレコードはhaiku&me的に重要なアイテムである。
(三点句、葉月、隆、安伸選)


釘打って日時計の針日短   興梠隆

釘が針となる。日短の日時計。ズレと繰り返しの妙。
(四点句、葉月、てふこ、いぶき、安伸選)


新曲を集めて駄盤冬ぬくし   興梠隆

安易な企画もののベスト盤であろうか。駄盤と言いながらも憎めない感じがするのは「冬ぬくし」の効果であろうか。
(三点句、葉月、安伸、猿丸選)


針山の綿はみ出して久女の忌   松本てふこ

最高得点句二つのうち一つだが、特選がある分こちらが上位と言える。久女の「足袋つぐやノラともならず教師妻」へのオマージュとも。忌日の句としてはちょうど良い距離感か。
(六点句、珠央特選、毬子、隆、茂根、猿丸、安伸選)


霜柱新しさうに輝けり   松本てふこ

シンプルにして鮮明な景。その一方で「新しさう」という言い方に「新しい」という概念への批評を感じる。私は当日並選としたが、報告者の特権によりあらためて特選とします。
(三点句、安伸特選、葉月、茂根選)


白鳥に戦争写真は新しい   九堂夜想

上五は「白鳥にとって」というように解釈するのだろうが、そのように限定しないほうがいい気がする。「戦争写真は新しい」というフレーズが、戦争写真そのものの人の心に及ぼす深い影響の、一側面を鋭くとらえているからである。上五で切れるかたちのほうが、私にとってより好ましい句となる。
(三点句、毬子、てふこ、安伸選)


針てふ蝶へ蝶へと招く空   吉村毬子

「針てふ」と言いはじめた言葉の音韻が「蝶」を招き寄せ、さらに蝶が「空」を招く。言霊ということを最も感じた句である。音数を整えつつどこかに捻りを作れば、もっと素晴らしい句になるのではないか。
(二点句、夜想、安伸選)


まち針の頭(ず)のぎつしりと星冴ゆる  浜いぶき

明瞭な景に見事に季語がはまったということか。収縮から開放へのダイナミックな展開がすごい。「頭」へ「冴ゆる」が響いて、世界がクリアにひきしめられた感もある。これも後付の特選とします。
(四点句、安伸特選、毬子、隆、猿丸選)


梟のむかふは新たなる塔と   青山茂根

闇の中にくろぐろと聳える「新たなる塔」はやはり、人間の欲望を象徴しているだろうか。梟のひそやかな飛翔は、闇夜を司る王の遷宮といったところか。建造中の東京スカイツリーをちょっと思い出した。夜、間近で見ると魘されるんじゃないかと思うほどデカいです。
(五点句、毬子、夜想、珠央、猿丸、安伸選)


秒針の跳ねて震へや春隣   榮猿丸

葉月氏の句では存在を無視されてしまった秒針だが、その動作の面白さを中七に凝縮した。「震へや」と体言+やにしたところ、下五の「春隣」とも相俟って、かろやかな昂揚感を引き出している。とてもキュートな一句。これも後付の特選としよう。
(五点句、安伸特選、葉月、隆、てふこ、珠央選)


最後に拙句をひとつ挙げさせていただきます。(六点句、隆、てふこ、珠央、いぶき、茂根選)

新宿に廃墟ありけり宝船   中村安伸

4 件のコメント:

  1. >葉月氏が懐中より細長い紙束を取り出し、句会をやらねば帰すまじという気魄で

    酔っていたので憶えていないのだけど本当に私って「豆の木な奴」。ちょっと恥ずかしい。

    霜柱新しさうに輝けり   松本てふこ

    採りそこねました(と思ったら採ってる)。

    返信削除
  2. 葉月さま

    すこしばかり誇張していないこともないような……。
    申し訳ありません。

    返信削除
  3. いや別に謝って頂くほどのことでは(^_^;)

    返信削除
  4. 先日はお世話になりました! 遅くなってすみません。
    新撰21のtwitter企画の日に恐縮ですが、
    いただいた句の評をさせて下さいまし。

    釘打って日時計の針日短   興梠隆
    こんなんできちゃいましたー、っていう苦笑感が見えて取りました。読んだこちらも、路上でものすごく珍しい石を拾ったみたいな嬉しさ。国語の問題みたいですな。この中に「金」「日」「十」「丁」はそれぞれいくつあるでしょうか、とか。ありそう。

    白鳥に戦争写真は新しい   九堂夜想
    上五の(一読しての)不条理さが頭から離れず。「白鳥にとって」と限定した読みを誘いながら、言外に「白鳥ではない、例えば私、もしくはあなたにとっては?」という大きな疑問を投げかける構成は上五の「に」の存在が一役買っている。句会の時は言語中枢が今以上に機能しておらず、「かっこいー…」とぼへっとつぶやいたことを覚えています。

    秒針の跳ねて震へや春隣   榮猿丸
    秒針がいとしい。春隣なんてずいぶんと甘いなあ、とも思ったんですが。安伸さんおっしゃるところのキュートさがあるんですね。
      
    新宿に廃墟ありけり宝船  中村安伸
    新宿が動かない。若さもない、オシャレさもない、酒臭い、だけど人が集まる街。上五中七が夢オチなのか、新宿の廃墟に宝船がひらっと落ちてるのか、どちらにしても宝船という締め方に脱帽。喧噪と虚無感の奇妙なサンドイッチ。ブラックユーモアを感じた一句。

    楽しい会でした、また何かあったら呼んでやって下さると嬉しいです。

    返信削除