2009年10月20日火曜日

haiku&me 9月の俳句鑑賞(1)

   「あ」とか言いながら     上田信治


  引く波の渦を残せり秋彼岸           中村安伸

 ふつうにいい。haiku&meの人たちの句は、前から好きで、それなりに傾向と対策を意識して読むものだから、ヤスノブさんに、こんなに現実に近い言葉を書かれると、とまどいます。


  胡麻振るやハンバーガーのパンの上    榮 猿丸


 サルマルさんは、パン屋さんなのだろうか。あ、でも、もう20年くらいしたら、サルマルさんも、アルトマンの「ショート・カッツ」のパン屋さんの役が似合うようになるかもしれない。


  少しだけあらがふやうに砧かな        青山茂根

 モネさんが何かを打てば、それは「少しだけあらがふ」だろう。あるいは、モネさんは、何かを「打つ」ということは、それが「少しだけあらがふ」ような誘惑を込めて打つことだ、と考えているのだろう。


  蜜厚く大学芋や胡麻うごく           榮 猿丸

 あ、これは、もうたいへんけっこうですね。「蜜厚く」という言い方が写生です。「蜜厚き」だと、概念ですから、止まってしまいますからね。


  緞帳の河緞帳の月映る               中村安伸

 夜の河に映る光の質感が、緞帳の暗く照る質感に重なるところが、重たい音とあいまって佳きです。



  どれほどの船を見て来し小鳥かな       青山茂根

 小鳥は、その小さな頭に何もとどめておけないので、見たものは眼の穴を素通りして、見たもの捨て場のようなところに行ってしまうのかもしれない。どれだけものを見ても、何も残っていなそうな、小鳥頭のさっぱり感──と、これは自分の好みに引きつけて、読みました。



  果てることなき休暇とも纏足とも         中村安伸

 不意打ち的表現でありながら、たいへん共感性が高い。好きな句です。


  朝顔の薄い薄いと呟けり                上野葉月

 「エッセイと俳句」というスタイルの楽しみは、両者が、ビミョーに裏切り合うことによって、お互いを照らし合うことにあるのだと思います。ハヅキさんのエッセイは、俳句以前に、なんかいろいろ裏切ってて、もう。掲句、「朝顔の」と、かっきりはじまって、後半、なにも了解できる意味がない、ぱーっと底抜けているところが、味わいです。

 好き勝手に突っ込み入れながら、読ませていただきました。妄言多謝。

2 件のコメント:

  1. > 蜜厚く大学芋や胡麻うごく           榮 猿丸

    >「蜜厚く」という言い方が写生です。「蜜厚き」だと、概念ですから、止まってしまいますからね。

    たしかに、「蜜厚き」だと、胡麻は動かない。ただ、「概念ですから」が、ちょっとわかりにくいので、もう少し、たのみます。

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  2. 連体修飾句は、体言のサブ的パーツになってしまうから。そのぶん背面に引っ込むと言いますか。

    蜜の厚さの実体を認識する言葉から、この世のすべての「蜜厚き」ものと同様に、というカテゴリーを示す言語に、品下ってしまうということです。

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