「あ」とか言いながら 上田信治
引く波の渦を残せり秋彼岸 中村安伸
ふつうにいい。haiku&meの人たちの句は、前から好きで、それなりに傾向と対策を意識して読むものだから、ヤスノブさんに、こんなに現実に近い言葉を書かれると、とまどいます。
胡麻振るやハンバーガーのパンの上 榮 猿丸
サルマルさんは、パン屋さんなのだろうか。あ、でも、もう20年くらいしたら、サルマルさんも、アルトマンの「ショート・カッツ」のパン屋さんの役が似合うようになるかもしれない。
少しだけあらがふやうに砧かな 青山茂根
モネさんが何かを打てば、それは「少しだけあらがふ」だろう。あるいは、モネさんは、何かを「打つ」ということは、それが「少しだけあらがふ」ような誘惑を込めて打つことだ、と考えているのだろう。
蜜厚く大学芋や胡麻うごく 榮 猿丸
あ、これは、もうたいへんけっこうですね。「蜜厚く」という言い方が写生です。「蜜厚き」だと、概念ですから、止まってしまいますからね。
緞帳の河緞帳の月映る 中村安伸
夜の河に映る光の質感が、緞帳の暗く照る質感に重なるところが、重たい音とあいまって佳きです。
どれほどの船を見て来し小鳥かな 青山茂根
小鳥は、その小さな頭に何もとどめておけないので、見たものは眼の穴を素通りして、見たもの捨て場のようなところに行ってしまうのかもしれない。どれだけものを見ても、何も残っていなそうな、小鳥頭のさっぱり感──と、これは自分の好みに引きつけて、読みました。
果てることなき休暇とも纏足とも 中村安伸
不意打ち的表現でありながら、たいへん共感性が高い。好きな句です。
朝顔の薄い薄いと呟けり 上野葉月
好き勝手に突っ込み入れながら、読ませていただきました。妄言多謝。
> 蜜厚く大学芋や胡麻うごく 榮 猿丸
返信削除>「蜜厚く」という言い方が写生です。「蜜厚き」だと、概念ですから、止まってしまいますからね。
たしかに、「蜜厚き」だと、胡麻は動かない。ただ、「概念ですから」が、ちょっとわかりにくいので、もう少し、たのみます。
連体修飾句は、体言のサブ的パーツになってしまうから。そのぶん背面に引っ込むと言いますか。
返信削除蜜の厚さの実体を認識する言葉から、この世のすべての「蜜厚き」ものと同様に、というカテゴリーを示す言語に、品下ってしまうということです。