加倉井秋をの第一句集『胡桃』をいただく。うれしい。
昭和23年刊。これ藁半紙かな、ひじょうに燃えやすそうな紙。一瞬で燃えるな。片面がザラザラで片面がツルツル。これ両面印刷する紙ではないのではないか。とても読みにくい。序文を師の富安風生が書いているのだけど、長い。風生は秋を俳句の特徴を「全体に通ずる口語調(仮にかく呼ぶ)の自由奔放な駆使にあるであろう」と書いている。
月光に掻き鳴らすギターは出鱈目 秋を
さくらんぼの柄は灰皿へ捨てる
鳩時計歌ふカレンダーを三月にする
食卓の鉄砲百合は素つぽをむく
雛の灯を灯すスヰツチが押入に
貸茣蓙に氷水とどき父が起きる
残雪らしき土塊を蹴つて見る
デパートの雛壇の裏に窓がある
引いていくととまらない。なんだかしあわせになるゆるさ。こんな句がえんえんと続く。風生の「退屈なガソリンガール柳の芽」路線だが、秋をは大胆な口語調、破調、散文調。切字はもちろん、切れがほとんどない。雑な句、しょうもない句がたくさんあるが、俳句でしか詠めない「詩」がここにはある。逆に言うと、ゆるさの裏に、俳句以外でも詠める「詩」は、俳句以外でやればいいじゃん、という意志が感じられる。
花種を蒔くことだけは自分でやる
これに似たゆるい句を以前作った(が、句会で小澤實にボツにされた)。ボツ句もたまには載せよう。
結婚式二次会花種もらひ帰る 榮 猿丸
いいでしょ、秋を!
返信削除以前、そちらの会の二次会で、ぼくが「加倉井秋をが…」って言いかけたら、小澤さん「おーーっ、好きだよ、加倉井秋を」って、言ってましたよ。
いい!いい!
返信削除信治さんぽいなと思ったよ。読んでて。
「加倉井秋をは、あらためて読み直されるべき」というような話が、だれかさんたちがどこかで最近交わされたらしいですよ!(意味不明ですみません)
あのね、第一、第二、第三句集の途中までは、すごくいい。
返信削除そっから、けっこう悲惨なの。
あら、そうなんですか。第一句集以降も読まなくちゃ。
返信削除山口波津女の、
返信削除ビール冷え切つてレッテルとれてゐる 『天楽』
もゆるくてかわいいです。
波津女か。ノーマークだった。
返信削除ビール壜のレッテル、中原中也の「渓流」という詩を思い出しました。以下に引用。
渓流で冷やされたビールは、
青春のやうに悲しかつた。
峰を仰いで僕は、
泣き入るやうに飲んだ。
ビショビショに濡れて、とれさうになつてゐるレッテルも、
青春のやうに悲しかつた。
しかしみんなは、「実にいい」とばかり云つた。
僕も実は、さう云つたのだが。
湿つた苔も泡立つ水も、
日蔭も岩も悲しかつた。
やがてみんなは飲む手をやめた。
ビールはまだ、渓流の中で冷やされてゐた。
水を透かして瓶の机へをみてゐると、
僕はもう、此の上歩きたいなぞとは思はなかつた。
独り失敬して、宿に行つて、
女中と話をした。
ってやつ。
太夫、この詩の路線で行けばいいのに。ゆるくないのもいけますよ。
返信削除ゆるいのは、あれな人にまかせておけ、というわけですね。
返信削除いえいえ、太夫はゆるいのもいいけど、こっちの路線も見てみたいっす、ってことで。
返信削除いや、ぼくはこの路線なんですよ、じつは。
返信削除ゆるいのは信治さんにまかせて。