2010年8月27日金曜日

 ― 使者と秋果 ―

  獣らを呼ばむ秋果の水辺へと      青山茂根




キャンプから帰る。いつもの清流沿いのキャンプ場ではなく、検索で探した、北関東の山間の沢沿い。木立のなかに、点々とテントサイト、傍らを流れが、という地が好み。着いてみたら、源流ともいえる、湧き水の水量が多いため沢となっているところだった。その先に川はない。都内より涼しい、といっても例年より3,4度気温が高い夏、とのことだが、標高が高いため梅雨もなく、集中豪雨を降らせる雨雲も、雷雲ももっと下なためその地には雷も落ちないのだとか。緑の風景の中に、遠近に白樺あり。

湧き水の流れが、冷たすぎて、川遊びが5分ともたない。生き物も、あまりに水がきれいなためいない。脇の、くぼみに溜まって少しよどんだところに、オタマジャクシと蛙が少し。岩の合間の流れがゆるいあたりに、沢蟹が少し。沢をせき止めて、池をいくつか作り、そこに岩魚や虹鱒を泳がせて釣堀状にしているが、底の水草の繁茂が美しすぎて、見とれる。様々な蝶が、飛来する。地に近く、捕まえられそうで、危ういところで逃げられてしまうのが、秋の気配。まだ小さな髪切虫が、あまりに見事な模様をしていて、驚く。

湧き水の味は、ひとたび味わうと忘れられない。沢水で食べ物や飲み物を冷やすのもすこぶる美味だが、味わっていたら、熊が寄ってくるから止めて欲しい、との注意を受ける。普通に、熊が出るらしい。コンビニを訪れることもあるという。重く稲穂の垂れた緑の田が眩しい。道路脇には猿を見かけた。夜間は多数の鹿の親子が両脇に草を食みにくると。夜のテントの中で、大きく激しく聞こえるが実はたいしたことのない雨音、沢の流れ、何かの動物の叫ぶ声に耳を傾ける。鹿らしき声は、まだしないようだ。清流過ぎるのか、河鹿も聞こえない(あるいは時期か。東京の端でも、7月には聞ける)。ホタルには少し遅い。満月の下の灯火へ、甲虫や鍬形も寄り来る。灯取虫とは飛び方が違うのが、哀れを誘う。電灯の明かりを月と間違えているか。帰れない使者のようで。

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