2010年8月16日月曜日

結社誌と同人誌

ミュージシャンのエピソードで好きなものの一つに、ムーンライダーズもはちみつぱいも結成前の鈴木慶一が「5人目のはっぴいえんど」になるかもしれなかったという話がある。ぼくが記憶していたのは、目黒のトンカツ屋で、大滝詠一と細野晴臣から「好きなバンドを3つあげよ」と言われ、鈴木慶一がその中に「CCR」を入れたため、加入はならなかったというものだったが、いまネットで調べてみたら、事実は違っていたようだ。

れんたろうさんが運営する「名曲納戸BBS」の、2008年6月3日の投稿に、鈴木慶一のラジオ番組に大滝詠一がゲスト出演したときの模様を文字起こししたものが掲載されており、そこでこの件について語られている。引用させていただく。

光岡ディオン: 二人の最初の出会いは?
鈴木慶一: 細野さんの家だったと思う。ギターでG→Emに行く中で、オレ、F♯を入れた。で、コレいいんじゃない、ということになった。
大滝詠一: (G→Emに行く流れで)経過音を入れるのは、センス。教えられるもんじゃない。細野さんが、奴はF♯を入れた!って、言ってた。
鈴: で、メンバーに入れようということになって、(はっぴいえんどのメンバーと)日比谷の野音に出た。
大: すると、正式メンバーにしようかどうしようか、となるわけ。目黒駅の近くのトンカツ屋で、「入団テスト」をした。
鈴: 質問が来るの。大滝さんから。ツェッペリンとザ・バンドとクリムゾンとでどれが一番好きだ?って。
大: それ、細野さんが聞いたと思う。
鈴: ザ・バンドって答えると、じゃあ、ザ・バンドと○○と○○○とではどれが好きかって。バッファロースプリングフィールドが候補にずっと残ってて、(3択候補の中に)CCRが入ってきて。で答えるのに2秒くらい間が開いた。そしたら大滝さんから「ほんとはCCRが好きなんじゃないの」と言われて。つまった。
大: 人生のターニングポイントだったんだよ。
鈴: 3年で終わるバンド(はっぴいえんど)と30年続いてるバンド(ムーンライダーズ)で…。
大: それで良かったんじゃない。
鈴: あの時、分岐点にいた、ということが分かったよ今。
大: 帰りに細野さんと「CCRじゃなー」って言った記憶がある。

このエピソードから、ふと俳句の同人誌を思った。
俳句の発表の場として、商業誌の他に、結社誌と同人誌がある。個人誌というのも、広義で同人誌に入るだろう(結社誌というのも、主宰の個人誌という側面があるけれども)。主宰、つまり師匠のもとに集い、指導を受けるのが結社誌で、同人誌は各同人が対等であるというのが、大きな違いということになるか。ただ、結社にも「会員」と「同人」がいて、同人は主宰の選を受けないということもあるらしいし、同人誌でも代表者が添削したり選をする場合もあるらしい。つまり、はっきりとした境界があるようで、ない。趣味趣向や主義主張、志を同じくする者が集うという意味でも、結社誌も同人誌も同じだろう。

ぼくが考える結社誌と同人誌の違いは、結社誌は誰でも入会できる、初心者歓迎だけれども、同人誌は、誰でも良いというわけではない、ということではないかと思っているのだけれど、どうなのだろうか。創刊同人以外は、冒頭の「入団テスト」のようなものが行われているのではないかと、想像しているのだが。「金子兜太と波多野爽波と高柳重信では誰が一番好きか」という三択が続いていく、というような。

かく言うわが「haiku&me」も、同人誌である。もちろん、「入団テスト」があった。中村安伸さんとぼくは、青山茂根さんから、「好きな俳人を3人あげよ」と言われたのだ。

一人ずつ行われたので、安伸さんが誰をあげたのかは知らないが、難なく同人になったようである。しかしぼくは、つい、自分の師匠である小澤實の名をあげてしまった。自分の師匠の名をあげるなど言語道断、それこそ「CCR」以下である。茂根さんは、しばし黙考したのち、なぜ小澤實をあげたのか理由を尋ねた。ぼくは自分の失敗を察し、弁明に必死になった。「逆に」を連発したのを覚えている。その姿に苦笑しつつ、寛容なる茂根さんは、仲間に入れてくれたのである。





というのは、冗談です。真っ赤なウソです。入団テストなんてありません。すみません。でも同人誌って、バンドみたいであってほしいなと思う。だいたい同人誌って、寿命短いし。そこからソロに転向するとか、別のバンドを組むとか。ローリング・ストーンズやムーンライダーズのような長寿バンドもあるけれど。その場合、バンドがプラットフォームになるわけで、むしろ結社誌に近いか。

旧作より。

 秋立つやペンギン群れて腥き  榮 猿丸

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