2010年3月16日火曜日

仲よしこよしはなんだかあやしい

先週の土曜は、現代俳句協会青年部シンポジウム「『俳句以後』の世界」へ行く。タイトルがもう、かましてる。かまされたぼくは、即申し込んだ。当日は遅刻して、第1部の、橋本直さんの「俳句のはじまり」、宇井十間さんの「俳句の終わり」は聴けず、第二部の「『俳句以後』の作家たち」と題されたパネルディスカッションから聴いた。パネラーは、池田澄子、岸本尚毅、鴇田智哉、四ツ谷龍の各氏、司会の宇井十間さん。

第1部を聴いていないのでなんとも言えないのだけど、パネルディスカッションからは、はっきり言って「俳句以後」というものはよくわからなかった。この顔ぶれが揃っただけで面白いといえば面白いのだけど、あまりつっこんだ話はなかった。顔ぶれはすごいのだけど、ヘンにバランスが取れているため、「俳句以後」というテーマ自体がぼやけてしまったように思う。鴇田智哉、関悦史あたりかなあ、ぼくが「俳句以後」と聞いて想像した俳人は。

懇親会で歌人の斉藤斎藤さん、花山周子さんに始めてお会いして、お話し。斉藤さんから、週刊俳句のサバービア俳句の話が出たのにはおどろいた。

その前夜、テレビで井上陽水のデビュー40周年記念の特番を観る。「澤」の編集の佳境だったのだけど、めちゃめちゃ面白くて、最後まで観てしまった(だからシンポジウムに遅れたのだった)。

たくさんの曲がダイジェストで紹介されていたのだけど、歌詞の奇跡的な言語感覚に圧倒される。天才、って何度も思った。母がレコードを持っていて、小学生の頃から聴いていたし、代表曲ももちろん知っていて、すごい人なのはわかっているつもりだったのだけど、わかっていなかったのだ。

ぼくが小学生のときは、「青空、ひとりきり」が好きだった。フォークっぽいものの良さがまだわからず、ポップでファンキーだったからというのもあるが、歌詞の「ひとりで見るのがはかない夢なら/ふたりで見るのはたいくつテレビ」というフレーズが、大好きだった。子供心にグッときた。

ロックとかポップ・ミュージックには、こうしたグッとくるフレーズがたくさんあって、そんなときふと思うのは、ニューウェイブ以降の現代短歌って、こういうフレーズと比べられちゃうなあと。読者からすると、比較できてしまうんだな。もちろん、現代短歌のなかにも、似ているようで全然ちがう、つまり「短歌」としか言いようのないものも当然あるわけだけど、単純に比べられてしまうものもあって、その点、俳句はいい。比較できるものがない、というより、比較対象にならない。いや、相手にしてくれないというほうが正確か。もちろん、Jポップや歌謡曲のフレーズの切れっ端に季語をくっつけただけのような俳句もあるけど、そんなものはどうでもいい。成仏してください。

話が逸れたが、この特番で、いちばん興味深かったのは、ボブ・ディランの影響を語っていたこと。影響と言っても、「ああ、こういうやり方もあるんだ」と気付いたことで、もともと持っていた言語感覚が花開いたということだが。「氷の世界」とか「傘がない」とか「夢の中へ」とか、ああいう詩の展開は、ディランの影響だったのだ。ひじょうに納得。

阿佐田哲也(色川武大)からも多大な影響を受けたようだ。阿佐田の話をふられて、語ったエピソードが印象深いものだった。麻雀をしていると、阿佐田は寝てしまう。睡眠障害だったらしい。阿佐田さんの番ですよ、と起こすと、朦朧としたまま、店屋物の鮨のトロの握りを取って、それを場に置いた。

完全にギャグなのだけど、病状を考えれば、シリアスな状況でもある。ギャグでやっているのか、本気なのかわからない。シリアスとユーモアが表裏一体なところ、たしかに陽水の世界である。これもひじょうに納得。じっさい、陽水の歌を聴いていると、爆笑してしまうことが多々あるが、これはもちろん嘲笑ではなく、その真逆で、こういう、すごすぎて笑ってしまうロックって、最近はなくなった。

で、陽水の「ゴールデン・ベスト」を買ってしまった。『陽水Ⅱ せんちめんたる』から一曲も入ってないのはちょっとさみしい。

ボブ・ディラン掛けよ蛙の夜なれば   榮 猿丸


2 件のコメント:

  1. 陽水の歌を聴くと、歌手ってずるいよなぁ、と嫉妬してしまいます。
    「ジェラシー」という歌い出しだけで、そこに「ジェラシー」の存在を感じさせてしまう。
    ああいう表現って、どうすればできるんですかねぇ…。俳句でも可能なんですかねぇ…。

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  2. あの声持ってたら俳句なんてやってないよねぇ。
    「すべての芸術は音楽を志向する」っていう言葉がありますけど、かなわないよね。逆に俳句でしかできない表現もあるわけで。
    山本健吉の「純粋俳句論」で「音楽性の抹殺」というようなこと言ってなかったっけ。ぼくはそうは思わないけど。

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