2010年3月13日土曜日

 ― 風景 ―

   砂丘駆け抜け佐保姫の匂ひかな      青山茂根



 叱りすぎてしまった夜は、自分でもざわざわして、読まなければいけない本やしなければいけないあれこれに気分が向かなくて、結局、「もう、自分たちで寝なさい!」と突き放した幼いものの隣にもぐりこんで、「ある日、どんぐり城では・・・。」と自分からお話を始めることになる。

 「・・・二人は、どんぐり城図書館で、『どんぐり城の歴史 第十二巻』の本を抜き出した奥に、鍵が一つ、落ちているのを見つけました。それは、どんぐり城にある、開かずの扉の鍵でした。『どんぐり城の歴史 第十二巻』の最後に、その鍵を使って扉を開けると、秘密の塔があり、不思議なことが起こる、と書かれていました。しかし、それが良い事か悪い事かはそのときによって違うのです・・・。」と、続けると、それまで叱られてすねていた子供達もわくわくしてきて、「行ってみる!行ってみる!」と乗ってくる。「古びた鍵を廻すと、重い扉がぎーっと鳴って、開いたその向こうには、狭い石造りの急な階段が続いていました・・・。」と語りながら、自分で、(あ、これは小さいときに連れて行ってもらった、欧州のお城の光景だ・・・。)などと思い出す。行き当たりばったりで続けているお話なので、ときどき辻褄が合わなくなるときがあるが、記憶のどこかにある何かがふと浮上して、口をついて出てくるものだ。幼い頃訪ねた欧州の城は、外見は優美な姿だったが、敵がくるとすぐ跳ね上げる入り口の橋、分厚い樫の木の頑丈な扉の奥に、捕虜を幽閉する足枷のついた部屋があったり、塔の階段に穿たれた窓は、内壁側が広く、外壁側が狭い開口になっていた。銃身を敵の方向へ向けて自在に動かせるように、外側からは容易に撃ち込めないようにである。そんな恐ろしげな風景ばかり、子供心に残っている。

 「・・・すりへって、ところどころ崩れた階段を、二人はどこまでも上っていきました。と、思うと下っているようでもあり、高いところにある明り採りの窓からの光だけで薄暗く・・・」と言うと、子供は、「怖いよ、もう戻ろうよ。」と弱気になってくる。(この上がったり、下ったり、どちらか判らないってのはエッシャーのだまし絵からだな・・・)と、自分に頭の中で突っ込みを入れながら、「・・・よく見ると、その階段の隅には、昔のおもちゃが落ちていました・・・」と展開すると、子供達は「何が落ちてたの?」と、また眼を輝かせてお話についてくる。「・・・バレリーナのお人形や、兵隊さん、それから・・・。」、(それは、アンデルセンだよ・・・)と自分で思いながら、子供の欲しがりそうなミニカーやら何やら、拾いながら行くことにして続ける。

 「長い、長い階段を上がったり、下ったりして、ようやく二人は、階段のおしまいまで来ました。そこには鍵のかかっていない扉がありました。その扉を開けた途端、ぴかっとして眩しい光が二人を包みました。そして、ごうううっと音がして、床やお城全体が揺れだしました・・・。」「うわあ。」「どうしたの?何が起こったの?」と反応されながら、自分でも、(なんかSF超大作っぽい展開だ。どうしよう)と考える。「お城の人が後ろから慌てて上がってきて、地震みたいですね。あれ?ここは?」ととにかく繋げる。「どこだったの?」と言われながら、(さて、どこにしよう?)とまた行き当たりばったりである。「・・・そこは、お城の一番高い塔のてっぺんでした。なあんだ、屋上に出たんだ、と二人はほっとして、辺りを見渡すと、あれ?いつもと景色が違います。」「周りは、見渡す限り海でした。明るい日差しの中で、どんぐり城はどんぶらこ、どんぶらこ、とどこかへ流れて行くのでした。」(うーん、それはももたろうの言葉だ。ついでに、なんかこの風景はマグリットの絵に似てるのがあったような。)と自分で可笑しくなる。子供たちは「大丈夫?」「どこへいっちゃうの?」と心配そうだ。(いや、つまり、大陸移動説だな。)と私は、「そのうちに、どしん!と何かにぶつかって、見てみると、どこかの岸に着きました。」「ええ?」「ほんと?」(まあ、このぐらいだと大陸移動なぞわかっちゃいないしな。)と、「どんぐり城は、地面ががっちりくっついて、歩いてその新しい陸地に行けるようになっていました。」「すごい!」「でも、どんぐり城町の人たちは?」と聞かれ、(う、まずい、前にどんぐり城下町に行く話したんだった)と、あせる。「そうだ!お手紙だせばいいよ。」「そうだ。」と子供達から提案されて、「それで二人は、どんぐり城町の人たちに、お手紙を書きました。」とようよう繋げて〆る。この手紙を書いたり、手紙が誰かから届いたり、という展開も子供うけするものだ。携帯電話や、メールやらが主流の世の中だが、何か手紙というものに、想像力をかきたてる要素があるのだろう。

 知らず知らずのうちに、過去の物語の遺産や、記憶の中の風景が登場し、新たな物語を作り出すというのも、何か俳句というものを思う。どこかで、やはり「景」であるところが、俳句なのだろう。

3 件のコメント:

  1. おもしろかった・・・

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  2. 私も面白かった・・・茂根さんの子供に生まれ変わりたい。

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  3. 上田さま
    匿名さま

    お読みくださりありがとうございます。

    匿名さま

    いやいや、うちは体育会系でぴしぱしです。お年玉は全て没収して、バイト経験などして価値がわかるようになるまで預かっておきますし。
    きびしいよー、とちびどもは泣き入ってます。

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