2010年5月14日金曜日
― 掌句集 ―
不夜城の響きや釣堀を閉ざし 青山茂根
ざらりと冷たい4月は、猫の舌のように過ぎて、早すぎる真夏の太陽が少し厭わしい5月の日々が続いたが、一昨日あたりからまた少し肌寒い。緑だけの、窓の外の景色は、このくらいの気温のほうが色鮮やかに見えて、花と花の境の時期の寂しさも、形象と微妙な色調の楽しみに変わる。
知り合いから頂いた私家版の句集は、父子の句が並んで一頁に収まったその脇に、後書きというか寄せ書きがひとつずつついている。父子の兄弟、従兄弟や、親戚といった人々が、記憶の中の父あるいは子の姿を短く載せているのだ。ときにそれは、彼らが暮らした家にまつわる思い出で、ほんの少し、その子のほうの仕事上と句会の知り合いであるに過ぎない私にも、過ぎ去った昭和の、一つの家族の肖像として、胸にせまるものがあった。百一歳になるというその父の、戦前から戦中・戦後の暮らしの軌跡が、何気ない思い出話のなかに垣間見えるようで。地道に、誠実に生きてきた有様が、一頁一頁から浮かび上がる、だが決して主張はしない。古い日本の映画を見終えたときのような、静かな充足として。
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