2012年9月15日土曜日

番外編― 文楽に出てくるオノマトペ集 ―  青山茂根



 

  月光ほろほろ風鈴に戯れ      荻原井泉水
  
  どつぷりぞうと浪あがる島の路かな    〃
  
  わつさり竹動く一つの着想          〃               

 
 井泉水のオノマトペは風変わりなものがある。
 15年ぶりに、文楽を再び見てみると、また新たな魅力に気づく。先日ツイッターにあげたものながら、まとめて再掲。

 俳句に使われる、よくあるオノマトペって物足りなく感じませんか?人と同じ表現をしてもつまらないのでは?それが思いがけず、文楽の中に出てくる江戸時代の町人言葉は、面白いオノマトペの宝庫であることに気づいた。そういえば、俳句の姉弟子の方は江戸悪所文学専攻であったし、いつも指導してもらっている連句のお捌きの方は西鶴の研究者だったりするので、ここに私があげたようなことは自明のことかもしれない。しかしそのあたり不案内な私には耳で受け止めて非常に新鮮だった。誰かが共感してくれるかも、と書き出してみる。今月の文楽東京公演第一部にて、浄瑠璃節から聞き取ったものを、あとからプログラムについていた床本で確認した。(後日、第二部をまた観にいくので、続きがあるかもしれない。)

ぞんぶり擬音語。…「そのつめたさもいとはず向かふの岸へぞんぶり」「ぞんぶり」「ぞんぶり」「ぞんぶり」…(9月文楽東京公演第一部「粂仙人吉野花王(くめのせんにんよしのざくら)吉野山の段」床本より)

ぴんしやん擬態語。…「ぴんしやんしても大鳥が、摑んだからにはもう放さぬ。連れて往んで女房にする。」…(「夏祭浪花鑑 住吉鳥居前の段」)「口説仕掛けて拗ね合うて、ほむらの煙管打ち叩き、煙比べのぴんしやんは、火皿も湯になるばかりなり」…(「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)釣船三婦内の段」より)

古語辞典、広辞苑に記載あり。「ぴんしゃん…(副)「ひんしゃん」とも。きびきびした活発な言動をするさま。とりすましたり、つんつんするさま。」(「古語辞典 第八版」旺文社 1994)  「ツンデレ」?

きなきな擬態語。…「お案じなされますな。この九郎兵衛がをりますわいの。きなきな思はずと早うごんせ。」・・・(「夏祭浪花鑑 内本町道具屋の段」)

古語辞典、広辞苑に記載あり。「きなきな…(副)近世語。くよくよと思い悩むさま。」(「古語辞典 第八版」旺文社 1994)

ぼつとり擬態語。…「花を飾るはこの家の娘、嫁入り盛りのぼつとり者、名もお中(なか)とての新入りの、手代清七と深い仲」…(「夏祭浪花鑑 内本町道具屋の段」)

「ぼっとり者」で古語辞典、「ぼっとり」で広辞苑に記載あり。「ぼっとり者…(名)近世語。ふくよかで愛嬌のある女。」(「古語辞典 第八版」旺文社 1994) 「ぼっとり…女のふっくらとして愛敬のあるさま。また、ういういしく愛敬のあるさま。」(「広辞苑第三版」岩波s61)

のめのめ擬態語。…「私とても同じこと。金は騙られ、団七に預けられ、のめのめとしてゐられず、」・・・(「夏祭浪花鑑 内本町道具屋の段」)

古語辞典、広辞苑に記載あり。「のめのめ(と)…(副)それをするのにさからうこともなく。恥知らずに。平気で。おめおめ。」(「古語辞典 第八版」旺文社 1994)

どんぶり擬音語。…「昔に変はらぬ達者な和郎、八と権とを蓮池へなんの苦もなうどんぶり云はせ」…(「夏祭浪花鑑 釣船三婦内の段」)

わつぱさつぱ擬音語。…「なんのお礼に及ぶ事。今も今とていけずめがわつぱさつぱ、連れ合ひはその出入りに往かれました。」…(「夏祭浪花鑑 釣船三婦内の段」)

「わっぱ」で古語辞典、広辞苑とも記載あり。「わっぱ(と)…(副)大声でわめきたてるさま。わあわあ。」(「古語辞典 第八版」旺文社 1994)

そぶそぶ擬音語?…「さればいな。どうやらそぶそぶ云ふによつて、お辰さんに預け磯さんは備中へ遣る。」…(「夏祭浪花鑑 釣船三婦内の段」)

 声に出して読んでみると面白いのでぜひ。言葉の流れ、リズム感も味わってみて欲しい。




0 件のコメント:

コメントを投稿