2012年9月7日金曜日
― おひるねと貨物船 ―
『OLD STATION 15 余白句会100回記念特集号』を頂く(ありがとうございます)。現メンバーの代表句「余白の十七句」から。
マラカスの父カスタネットの母朧 柴田千晶
校庭を剥がせば朧なる地球 辻 憲
夏座敷ちからある乳横座り 八木忠栄
89年に始まった余白句会の、第4回から99回までの句会記録が掲載されている。すでに鬼籍に入られた方も多く、その残された句が今この時間に一読者をくすりと笑わせているなどとは思わなかっただろう。俳句を始めたばかりの頃に手に取った『おひるね歳時記』(筑摩書房 1993)の著者、多田道太郎の句(「袂より椿とりだす闇屋かな」)(「というわけでひとりしずかに風の吹く」)を見つけて、何かほのぼのとしたり。連句でご一緒させて頂いたことのある方の句も載っていた。中でも、辻征夫の句に、心ひかれるものがあった。詩性とか、自分語りの有無とか、よく言われるそういった評価にはまったく無頓着であるかのように、無心に身の回りを見わたした、といった句ながら、詩人ならではの視点と言葉の選択の確かさ。また、おそらく無意識であろうが、既存の俳句にほぼ類想句が見つからない独特の語り口。見えている世界への茫漠とした疑念を句にあらわして、巧拙を超えた魅力がある。亡くなられた後に、俳号をタイトルに『貨物船句集』(書肆山田 2001)が刊行されている。当日の兼題らしき同一の題の句が並ぶ中での比較も面白い、余白句会での句から引いてみる。
つゆのひのえんぴつの芯やわらかき 辻征夫
梅一輪妻の故郷の土砂崩れ
姫胡桃義眼の母の浮浪癖
咳こんで胸をたたけば冬の音
物売りが水飲んでおる暑さかな
冬の雨饅頭熱き離別かな
吾が妻という橋渡る五月かな
猫じゃらし化け猫も野を横切りし
落葉降る天に木立はなけれども
雛壇や他家の官女の美しき
衣でて衣にはいるまるはだか
現メンバーによるエッセイ<わたしの好物>では、今井聖氏の「カツ丼」が面白かった。誰かに話したくて、ここに記したくてうずうずする。そんな刺青もあるのか。ほとんど現代アートだ。
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