2012年5月11日金曜日

― 音の陰影 ―                青山茂根



 東京国立博物館で行われている、「ボストン美術館展 日本美術の至宝」展も素晴らしいのだが、敷地内の建築を見て廻るのも楽しい。特別展会場の平成館は外観より内装のほうが見事ながら、その喧騒を少し外れると、あまりひと気のないなかに、静かにそれぞれの建物を鑑賞できる。緑の木陰を散策しつつ。

 明治末に建てられた、旧東京帝室博物館を前身とする表慶館は、鹿鳴館の華やぎを彷彿とさせる青銅色のドーム屋根が美しいが、残念ながら現在休館中(内部はこちらのブログから少しお借りして)。多少の障害物はあるが、たくさんの馬車が乗りつけたであろう、その美麗なファサードを眺めることはできる。

 ニューヨーク近代美術館新館と同じ建築家による、法隆寺宝物館は、その前庭からして、人を静寂な気分にさせる造り。伝統的な枯山水の精神を逆発想にして、水とその表面張力による直線を使って表現したものと感じた。本館の重厚さも好みだが、この現代的な外観、内装や展示方法の細部まで一貫した美意識に貫かれた設計がなんといっても記憶に残る(ある方のブログに詳しくあったので、お借りして張らせて頂きます)。モダンながら和のエッセンス、日本的な細い縦格子のモチーフや随所に配された木の質感に、見えない霧を浴びるような錯覚にひたる。

 冒頭の写真は、本館にある、ステンドグラス。本館は、建築全体の趣きも和洋のテイストを取り込んでいて一見の価値あり、しかも内装が随所に面白く、特にこのステンドグラスの色合い、伝統的な美感によるものといえるだろう。欧州の日照時間の少ない暗い冬には、華やかな彩りのステンドグラスが映える、しかし、日本の晴天の多い冬、年間を通して日照時間の長い土地柄には、くすんだ色のステンドグラスも何か心に沁みるものがある。現在、2階で行われている「日本美術の流れ」展もぜひ見るべき。一日かけないと見尽くせないほど充実した展示。しかも空いている。




 そして、展示室から展示室へ渡る途中に、ふと目にとまったもの。片隅には、昭和の頃に使われていたダイヤル式の黒電話が。しかも現役で。その上の壁に目をやると、打ち付けられた板に、「構内電話 外部にはつながりません」の墨字とともに、錆びた螺子と掛けるための穴。きっと、ここには黒電話より以前に、壁掛け型の電話が取り付けられていたのではないか、などと想像を膨らます。赤瀬川原平氏が観察を始めた、「超芸術トマソン」が建物のあちこちにまだひっそりと息づいているかも。と、黒電話の鳴る音が、石造りの建物に静かに響いた。柔らかな響き。リリリリーン。





(写真は全て館内職員に確認の上、撮影可能箇所のみで写しています。)

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